大田区の大森・糀谷では江戸時代中期から、羽田は明治時代から海苔養殖が行われていました。作業にはベカブネ(またはテンマ)と呼ばれる小舟を使用し、漁場の拡大と共に大型の海苔船が利用されるようになりました。これらの船を建造したのは船大工であり、昭和30年代に大森には7軒、糀谷には1軒、羽田には9軒の船大工(造船所)がありました。
海苔養殖に欠かせないベカブネは木造で、船底となるシキ(敷)と、船縁を構成するカジキとタナを組み立てて作られます。船の建造には、用材の木を切るための鋸類、木を削る鉋類、舟釘やそれを打つ穴を開けるためのツバノミなど、用途によってさまざまな大きさと形の道具を使いました。特に、海水が漏れず軽く丈夫な造りに仕上げるためには、これらの道具を使い分ける熟練の技と工夫が求められました。船底のシキを作るだけでも20以上の工程があり、その技術の高さがうかがえます。
本展では、大田区立郷土博物館の特別展「大田区の船大工」(平成8年度)に展示するため、大森の平野造船がベカブネを建造した際に記録した写真と、平野造船が実際に使用した道具類を中心に展示します。展示を通して、大田区の海苔養殖を支えていた船大工の造船技術をご覧ください。